ヘンゼルとグレーテル

前編



ある大きな森の入り口に謎の一家(?)が暮らしていました。
そこにはロカ(=お父さん)とイロハ(=お母さん)、そしてレイ(=ヘンゼル)、セイズ(=グレーテル)が大変賑やかに‥‥‥争いの耐えない生活をしています。

しかしイロハはそんな生活に満足していませんでした。
なぜならば!
ロカとラブラブな生活(!?)が、あの2人によって邪魔されているからです。
そこでイロハはある計画を立てました。
ロカとの愛の生活の為、レイとセイズを森においてきてしまうという計画。
"これが成功すればラブラブは間違いない!!"
イロハは燃え上がる野望を胸に、その計画を三日三晩考え、とうとう実行にうつす事にしました。

まずはロカに買い物に行ってもらいこの家から出てもらう。
「レヴィス様‥‥‥じゃなくて、ロカ様〜〜☆
町まで行って麦パンを10個買ってきてくださいな」
「麦パンを10個か‥‥‥?お前がそんなに食べたいというなら止めはしないが」
「私が食べるんじゃありませんってば!いつもこの辺にくる妙な鳥にあげるんですよ」
「その鳥、10個も食べるのか?変わった鳥もいるものだな」
「ええ、最近見かける赤い鳥なんですけど」
「まあいい。その鳥とやらに麦パン10個買ってやればいいんだな」
そこでなにをどう納得したのか、ロカは快く買い物を引き受けてくれました。
これで計画通りロカはしばらく家には帰ってきません。

次はセイズです。彼を計画にはめるのは何より簡単!
ではここでちょっと講座を‥‥‥

――セイズを罠にはめよう講座――

1、とりあえず性別が女性なら誰にでもできます。
2、思いっきり耳もとで話しかけて慌てさせます。
「セ・イ・ズ」
「うわぁ!!」
3、驚いたところで詰め寄りながら用件を言います。
「ちょっと頼みごとがあるんだけど‥‥‥」
「な、な、なん、なんでしょうっ」
4、ちょっと上目遣いぎみだと成功率がアップします。
「レイを連れて森の奥まで行って来てほしいの」
「え?森の奥まで‥‥‥なんで‥‥‥」
5、セイズが疑問をもっても大丈夫!セイズに密着すれば説明などしなくても問題なし。
「いいから、行って来てくれるわよね?」
「はっ、はい、い、行きます、行きますっっ!」

―――以上セイズを罠にはめよう講座でした――

セイズはイロハに迫られて、慌ててレイの部屋までダッシュしてきました。
「レイ!」
「なに?またイロハにからかわれたの?いい加減僕のところに逃げ込んでくるのはやめてくれないかな」
レイは冷たく言い放ちましたが、セイズとしては逃げ込む場所がここしかないのです。
自分の部屋では逃げることにならないし、ロカのところに逃げ込むのはちょっと‥‥‥。
その点レイのところにくれば、みごとにレイとイロハの争いになるので、セイズはそのスキに逃げることができるからです。
「いや、それはそうなんだけど、なんか森まで行ってきてくれって頼まれたんだ」
「へぇ、行ってくれば?」
「だからレイも一緒に‥‥‥」
「‥‥‥まあいいけど」
「ええっ!!?」
レイが素直に行ってくれると聞いて、セイズは我が耳を疑いました。
いつもなら‥‥‥‥
『なんで僕が行く必要があるのさ。行くならセイズ1人で充分だし、それに僕はロカ様の側を離れるわけにはいかないし、何より疲れるからね』
と、思いっきり冷たくあしらわれるというのに!
「今ロカ様いないし、それにうまくすれば‥‥‥‥」
「?」
「いや、なんでもないよ」
「そ、そうか‥‥」
セイズはレイが極上の笑顔を浮かべながら答えたのが恐ろしくて、それ以上なにも言えませんでした。
「それじゃあ行こうか」
「あ、ああ」
こうしてセイズはなにか企んでいるであろうレイに、引きづられるようにして森の奥まで行く事になってしまったのでした。

その少し後、ロカは麦パンを10個かかえて家に戻ってきました。
ロカはなにか家が静かすぎることに疑問をもって、イロハに訪ねてみました。
「イロハ、あいつらはどうした?妙に静かだが」
「ああ、あの2人なら森まで遊びに行きましたよ」
「遊びに?あいつらが‥‥‥?」
ロカは疑いの眼差しでイロハを見ました。
セイズとレイが遊びに行くという想像がつきにくかったので、イロハがなにかを企んでいると思ったのです。
ちなみにイロハがそれを企む理由についてはわかっていなかったりもしていますが‥‥‥‥。
と、とりあえず、イロハはその眼差しに笑顔で返しているだけです。
「‥‥‥まあいい。あいつらならそのうち帰ってくるだろう」
そう言ってロカは自分の部屋に向かって歩いていきました。
イロハがその後ろでニヤリと微笑んでいることを知らずに。

一方、森を出たセイズとレイは、奥へ奥へと向かってひたすらに歩いていました。
「結構奥まできたけど、オレたち、家まで帰れるのか?」
「さあ。でも一応パンくずまいてるから平気じゃないの」
「ああ、そんなことしてたんだ」
セイズは感心しながら後ろを振り返って見ました。
するとその目に妙な鳥‥‥‥じゃなくて、鳥のきぐるみを着た妙な人間がうろついていました。
「あ、あれは‥‥‥?」
セイズは我が目を疑いました。
森の中をその妙なスタイルで歩いているのですから!
「いや〜、麦パンっていいよなぁ」
その鳥のきぐるみを着た妙な人間は万遍の笑顔で話しかけてきました。
「‥‥‥もしかして‥‥‥‥」
レイがボソリと呟きました。
「地面にまいた"麦パン"、食べたりしてないよね‥‥‥」
「ああ、そこらじゅうにまいてあった麦パンかぁ。うまかったぜ!
その前に麦パン10個も食べたし、今日はいい日だな!!」
「地面にまいたもの食べるなぁ〜〜〜!!!」
レイはその怒りを思いっきりぶちまけましたが、一方のカール‥‥‥‥あ、いや、鳥のきぐるみを着た妙な人間は全然動じていません。
「あっはっはっは、そういうなって〜。それじゃあ新たなる麦パンを求めて旅にでるぜ!
じゃあな」
鳥のきぐるみを着た妙な人間は、満たされた顔でその場を去っていきました。

「と、とりあえず帰れなくなったってことだよな」
「そうだね。でもまあ、なんとかなるでしょ」
そういうレイの横で、セイズは不安そうでした。
でもとりあえず歩くしかないので、彼らはまた森の中を進んでいくことにしました。

しかしいくら進んでも、森が続くばかりでなにも見えてはきません。
なんだか少しお腹がすいてきたりもします。
「セイズ、まだ帰れないの」
「お前な、おぶってもらっといてそれはないだろ」
「なにか文句あるの?」
「い、いえ、そんなことは‥‥‥」
しばらく歩いて疲れたレイは、セイズにおぶってもらっていました。
その分セイズは疲れているのですが、レイにしてみれば全然関係ないようです。

そんな彼らの前に、なにか建物のような影が見えました。
不思議に思った彼らが近づいてみると、その建物はなんと、
家はパン、屋根はおかしでできた家でした。
「なに、このいかにも怪し気な家は」
レイはセイズの背中で呟きました。
「怪しいけどとりあえず食べられるよ」
「君、少しは警戒したほうがいいんじゃない‥‥」
レイはセイズの背中から降りて、思いっきりパンをひっぱがしました。
「お、お前今警戒しろって‥‥‥」
「それとこれでは話は別。あるものは有効に使わないとね」
「それは確かにそうだな」
セイズは納得ながらこの家のドアの前に立ち、もう一度この食べ物でできた家を見ました。
しかし本当に誰がこんなものを作ったのか‥‥‥。
などと考えているその時でした!

バタンッ

ドアが急に開いて、セイズは思いっきりそれに顔面がぶつかってしまいました。
セイズはその痛さで顔を押さえています。
「君、器用にぶつかったね」
レイは遠めにそれを見て呟きました。
レイはそのままドアを開けた、この家の主であろう人物を見ました。
なんとそれはザイル(=魔女)でした。
「こらぁ!家を勝手に食うな!!」
と、ザイルはいきなり説教をくらわせ、レイとセイズの顔を交互に見回しました。
しかしセイズの顔を見たザイルは急ににこやかになり、こう言いました。
「いや、怒ってすまなかった。まあ上がって茶でもどうだ?」
ザイルは爽やかな笑顔で彼らを強引に家の中へと進めました。
ですが家の中は真っ暗でなにも見えません。

と、突然ザイルがレイとセイズの背中をトンッと押しました。
押された彼らはなにか冷たいものにぶつかったので、
その感覚を不思議に思いましたが、その後の音でそれがなんだかわかりました。

ガチャン

そうここは牢屋の中。冷たい感覚は鉄の冷たさで、この音は牢屋が閉められた音だったのです。
ザイルは牢屋のカギを閉めると、家の明りをつけました。
明りに照らされたザイルの顔は先ほどよりもさらににこやかになっており、セイズとレイはなにか非常に嫌な予感がしてなりません。
いかにも食べられてしまいそうな雰囲気です。
しかしレイはいつも通りの口調でザイルに訪ねます。
「で?なんのまね?」
「‥‥‥‥‥」
ザイルは黙ってこちらを見ていましたが、やがてセイズを見ながら一言いったのです。

「妹の婿になってくれ!」
「‥‥‥‥は?」
セイズは思いっきり聞き返しました。
なぜこんなところで結婚の話がでてくるのか。
「お前ならきっと妹の婿になれる!顔が妹好みだからな」
そんなことを熱弁されても困るセイズでしたが、とりあえず丁重に断わろうと考えました。
「婿になれと言われても‥‥‥‥。まだ会ったこともないし‥‥‥‥」
「う〜ん、確かにそれはそうだな」
納得してくれたのか、と思ったのもつかの間のことでした。
「じゃあ俺が妹のことを聞かせてやろう」
「え、あの‥‥‥‥‥」
「そうだな、じゃあ妹の一番かわいい時の話からしてやろう。
そう、あれは5才の時、俺が妹の誕生日に‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」

―――1時間経過―――

「まだ終らないの‥‥‥?」
「終らないみたいだな。まだ6才のころの話だし‥‥‥‥」
2人はザイルの妹自慢を聞かされ、顔に疲れがでてきました。
「こらっ!話はきちんと聞け!!」
「は、はいっ」
しかしザイルの話は一向に終ろうとせず、むしろ増々気合が入っているように見えます。
「‥‥‥僕は寝るから、終ったら起こしてよね」
レイは呆れながら目を閉じてしまいました。
(オレも寝たい‥‥‥‥)
セイズは涙ながらにそう思いましたが、セイズはどうやら寝ることを許されないようです。
なぜならザイルはセイズに妹のことを聞かせたいのですから。

―――次の日―――

レイがその眠い目を擦りながらあたりを見ると、ザイルはなんとまだ妹自慢を続けていました。
しかもセイズは正座までしてその話を聞いています。
「まだやってたの‥‥‥?」
「あ、ああ‥‥‥、今やっと15才の時の話で‥‥‥‥」
セイズは顔色も悪く、そう言いました。
「‥‥‥君も、そんなにバカ正直に聞くことないのに」
レイは呆れてしまっています。
「あ、あの、そろそろどういう方なのかわかりましたから‥‥‥‥」
「ん?そうか?でもまだとっておきの話が‥‥‥‥」
「い、いやっ、もういいです!!」
セイズは慌てて辞退しました。これ以上続けられては命に関わるので‥‥‥。
「そうか、妹の魅力、分ってくれたんだな!」
「そういうわけでは‥‥‥」
セイズの呟きなんてザイルは聞いてなどいません。

ザイルは万遍の笑顔で、うまいことセイズだけを牢屋から出しました。
「それじゃあ行こうか!いざ妹との挙式へ!!」
ザイルはセイズの腕をがっしりと掴んで引きずるように連れていきます。
セイズは自分の置かれた立場に非常にまずいものを感じました。
(このままでは家に帰れないどころか、その妹とやらと結婚させられてしまう!)
そう思ったセイズは、ちょうどそばにあったフライパンを掴んで、ザイルに向かって思いっきり振りおろしました。

ボォ〜ン

間抜けな音がして、頭を殴られたザイルはその場に倒れこみました。
"許せ、ザイル"
セイズは倒れたザイルに向かって、心の中であやまりました。
ザイルをフライパンで殴り倒してでも、セイズはその妹とやらと結婚したくなかったのです。
セイズは倒れたザイルから、牢屋のカギを取り出してレイを牢から出しました。
「さ、帰ろうか」
レイは牢屋からでるなりそう言いました。
なぜだかさっきからレイはすごく楽をしているような気がしてなりません。
しかしとりあえず家に帰ることが先決。
セイズはレイを連れ、疲れた顔でこの家をでました。




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