呪術-結界陣

<青龍>








 ―池袋―

 1時間後、都市・池袋のとあるカフェ。カフェに一歩足を踏み入れれば、都会の雑踏を感じさせない造りと音楽が溢れ、急に現実離れしてしまった気さえする。
 そのカフェの一番奥に、彼らはいた。


 「夢を見たのか・・・。なら出現は確実なんだろう。だがまず場所の特定をしないとな」
 冷静に分析するのは我らがブレーン、『呪術設計士』の桶那 豊(とうな ゆたか)。
 彼は世田谷区 梅里(ばいり)高校3年に所属している。
 現代になってもこの東京を守る為にいくつもの結界が施してある。呪術設計士とは、その東京の結界を設計するものだ。結界となる神社や寺を建てる位置を決めたりする役目を持っており、政治家などから依頼がきたりするらしい。豊は呪術設計士の家系に生まれて、その役目をついでいるという。
 その役目からか、見かけは落ち着いた古風なイメージを持つ青年である。そう、見かけは。

 「そうだね。で、ゆたかにぃはわかったの?場所。」
 どっからどう見ても年下であろう、『霊能力者』の美並 翔(みなみ しょう)。豊と同じ、梅里高校に通ってる1年生。
 実は彰の弟だが、養子に出されたということは彩音も聞いている。祗譲家は東京守護一族の家系で、第一子のみがその家系を継ぐという、とにかく難しい家系だ。
 さすが彰の弟だからか、かわいい容姿で最近人気を集めているとか・・・。

 桶那豊・美並翔・祗条彰・楴柳彩音、現在集まっているのはこの四人。集まるべき人はもう一人いるのだが、現在は学校の都合で遅れている。

 「<青龍>の場所は大体特定した。これは結界を張るための神社が一つだからラクだと思うぞ」
 豊が微笑しながら言う。
 「この前は大変だったもんね」
 彩音はホッと胸をなで下ろす。
 「えっと、こないだは・・・なんだっけ?」
 あまりにあどけない顔で翔が訪ねるものだから、豊はドッと疲れが出るのを感じた。
 「あのなぁ・・・、この前は西の<白虎>だっただろ」
 「さらにその前は南の<朱雀>だ」
 彰も飽きれて水を差す。
 「ああ、そっか。今回ので3つめってことだね」
 やっと納得した様子の翔に、ため息が三つほど聞こえてくる。
 「翔は本当に天然ボケだよね・・・」
 彩音に言われた側から、またもや翔がするどいボケをかます。
 「僕たち、なんでこんなことやってんだろうねっ」
 全員の力が一気に抜けたことはいうまでもない。

 「はぁ・・・、いいか、何回も言ったが、これで最後だ。良く聞けよ」
 もはや豊の顔に生気がなくなってきている。
 「俺達は、この東京の崩壊を防ぐために四神を発生させなければならない。ああ、四神とは東西南北を司る霊獣。それを自然形態に置き換え、その理論を取り入れて都の位置を決めると、そこに繁栄をもたらしてくれると言われているんだ」
 「東の青龍は川・西の白虎は道・南の朱雀は海・北の玄武は山、といった具合だな。その中心に都をたてると、四神に守護されてその都は繁栄するってことだ。」
 彰の補足説明により、パッと理解できた顔になる。
 「それを実際実行したのが、東京の前身、江戸だ。その江戸はなくなったが、いまでもその四神は東京に息づいている。東京は『呪術都市』であると、だれかが言っていたが、まさにその通りだ。東京は四神の、呪術の守護で生きているといっても過言ではないっ!」
 いつの間にか、豊の説明に熱がこもってきている。

 「そう、この地は四神の守護をうけ、さらに呪術師による呪術でその守護を完璧にしているのだ。我々はもうこの守護なくしては生きてゆけないっ!!東京は四神相応の地なのだぁ!!!」
 豊の絶叫がこじゃれたカフェいっぱいに広がり、人々の視線が痛い・・・。


 「・・・はずかしいから、やめてくんない?それ」

 聞き慣れた女性の声。この鋭いツッコミは・・・
 「あ、恵先輩。お疲れさまです!」
 颯爽と登場したのが占い師の希羅 恵(きら めぐみ)。足立区にある桃源(とうげん)大学1年のお姉さん。
 彩音・彰と同じ櫻花高校の卒業生で、栄えある彰ファンクラブの前会長。ただ、本人は彰のファンではなく、仲間として常に一緒に行動していたらいつの間にかそうなっていたとか。
 美人で頭もいいから同性にも憧れられていて、彩音もそのひとりであったりする。


 心底飽きれた顔で空いた席に恵が座ると、ハッと我に帰る豊。みんないつものことなので、呆れ返るを通り越して何事もなかったかのように振る舞っている。ある意味さすがだ。
 「豊先輩、説明し出すと熱こもっちゃうからなぁ・・・」
 彩音がぼそっとつぶやく。
 「ここ、喫茶店なんだぜ、豊」
 彰にまで注意されて、豊は急に小さくなってしまった。
だが『呪術設計師』のプライドにかけて、途中になっている説明を終えるわけにはいかない。コホンとせき払いをして話を続ける。

 「・・・で、話の続きだが、その守護が弱まってきている。去年の夏にきた彗星、あれは不吉なことが起きる印としてあらわれる妖星だったんだ。あれが東京に妙な磁場の乱れを引き起こし、守護が弱まった。
 そして台風が東京を直撃し、鬼門、つまり悪いものが入ってくるとされる方角の守護神社を直撃し、東京全体の守護が消えつつある」
 その後を彰が続ける。
 「俺たちは、四神をまた活性化させなければならない。じゃないと、東京という要を失った日本は、崩壊してしまう。それをさせないために、オレたちがやるんだ。
 それが東京守護を定められた家庭に生まれてしまったオレ達のさだめってやつだ。」
どことなくいやそうな響きを感じ取ったのは彩音だけだったのだろうか。
 「うん、わかった。とにかく四神復活させればいいんだよねっ。」
 翔がやっと理解してくれたようで、話はやっと前に進むこととなった。


 「ふう。さて、恵さんもきたことだし、本題にはいろうか」
 「そうしてくれるとありがたいわね」
 「豊先輩、<青龍>はどこなんですか?」
 単刀直入に彩音が聞く。
 「<青龍>は、今も昔も中心と見なされている皇居、あそこを中心にみて東の川、荒川だ」
 「荒川ねぇ。でも東には隅田川もなかったかしら?」
 確か、現在、隅田川は荒川の支流となっている川だ。
 「ああ、だが青龍がすまうだけの長さや勢いを考えると、荒川しかないんだ。」
 「なるほど、だが、川のどこに行って青龍を復活させればいいんだ?距離が長過ぎるぞ。川を端から端まで歩いたら大変なことになるだろ」
 彰の質問に不敵な笑みをみせながら、東京の地図を広げる豊。
 「そんなことしなくてもいいんだ。よくみると、荒川はいくつもの川とつながってるだろ?でも、呪術的に見れば、荒川は他の川から隔離された、一本の川なんだ。」
 全員が不思議そうな顔で続きに聞き入る。

 「荒川とつながっている川は、隅田川・中川・江戸川だが、その分岐点4ケ所にはすべて、『熊野神社』がある」
 「あ、ホントだ」
 彩音がそれを発見して指差した。
 「で、この『熊野神社』の"クマ"は境を意味すると言われている。つまり・・・」
 「結界・・・か」
 察知したように彰がつぶやく。
 「つまり、荒川につながるすべての川が、結界により荒川ときちんと分断されているのね」
 まだちょっとわからなさそうな顔をした翔の横で、納得したように恵が言う。
 「そういうことだ。それに気づいてうちの・・・『呪術設計士』御用達の結界師に頼んで、結界を補強させにいった」
 呪術設計士はつねに都市計画と隣合わせにある。だから寺や神社の場所を決めた後、結界を張る"結界師"に頼むのはいつものことで、その結界師にすでにお願いしたというのだ。

 「はやいな。俺達の出番はないんじゃないか?」
 「いや、そうでもないんだ。」
 彰の質問を、少し困った顔つきで豊が返す。
 「4ケ所のうち、1ケ所だけ、結界がはれなかったと報告がきた。・・・隅田川が荒川と合流するところ、岩渕水門近くにある『熊野神社』だ。ここの結界を元に戻せば<青龍>が復活する。彩音の見た夢にてらしあわせても、まちがいない。」
 引き締まった顔で豊は言ったが、これをぶち壊すのは決まって翔だ。
「わ〜い、龍かぁ。僕見るの始めてだな〜」
 あまりに目を輝かせていうので、いつも豊は怒れない。他の3人はその様子がいつもおかしくてしかたないのだが。横で必死に笑いを堪える3人を後目に、もうあきらめた、といった表情で今後の打ち合わせにはいる。

 「でだ、普通の結界師の手におえないここの結界、もちろん彩音にはってもらうことになる」
「はいっ」
 『地霊結界師』の家系である楴柳家の生まれである彩音。父親が『地霊結界師』だったと聞かされたのは最近のことだった。『地霊結界師』は地に住まう地霊という存在に呼びかけ、結界を作る上級結界師。その地に住まうものであれば、もちろん青龍とて例外ではない。
 「人に見られないよう、いつも通り集合は夜中の十二時。これでいいか?」
 みんな、彰に向かってうなずく。
 「じゃあ、また後で」
 一斉に席を立つと、支払いは豊に任せてそれぞれ帰路についていった。



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